前略
お便り どうもありがとう。
いま「影武者」のロケーションの為、京都に来ています。
(ホテルの便せんで失礼。)
熊本映画祭は、本当に感激しました。
受賞式に出席して良かったと思ってます。
これからも、素敵な映画を作っていきたいと思いました。
まだつたない演技に、賞を与えてくれたという事は
ただ、ほめているのではなく、役者根津甚八に
鞭打っているのだな、と感じられうれしかったです、とても。
熊本へは、その内、コンサートでうかがうかも知れません。
また会う日迄、サヨナラ。
根津甚八 ’79・12・16
それは今から、35年前
高校生だった私が出会った俳優は、目の前で笑っていた
「人」と遊ぶより、「物」と遊ぶ方が楽しいという
自閉的な傾向だったその俳優が出す、翳りのような匂い・・・
陰のある雰囲気と静かな物腰、そして、奥底に秘めた強く光るもの
時に鋭く、時に脆く、、壊れ物のような不安定さを滲ませた目
その中でもやはり、何かを追う追跡者の輝きが堪らなく好きだった
勿論、今でも変わらず、色褪せることなく・・・☆
当時と言えば、何かと話題になるトレンド俳優や歌手の名前
しかし、同年代の女子とは、意見も好みも全く合わない私だった
一人、渋い俳優にのめり込み、時代劇やドラマなど、、
親の世代がひいきにする味を、どことなく覚えたものだ
私が惚れ込んだ俳優は、映画やTVなどで、演技派として注目されていた
そして、巨匠の監督が手がけた大作のロケが、ちょうど始まったばかりの
頃に、地元主催の映画祭が開かれたため、受賞も兼ねて来場し
出演作品の上映が、大手のデパート最上階にあるホールで行われていた
私は、そこに当ても無く行ったものの、招待客しか入れない会場は
当然ながら閉ざされ、その向こうの空気を必死で想像する思いだった
そして、そのロビーの片隅でじっと待った
暫くすると扉が開き、一足先に上映会場からファンが出て来た
そして、ロビーは瞬く間に女性ファンで埋め尽くされ、サインの行列が出来た
見ていた私は、ただ圧倒され並ぶことも出来ず、後ろから背伸び状態、、
そうするうちに、係員の「これで終了します」の声が・・・
学校帰りのまま、学生カバンを片手に、発売されたばかりの
俳優の写真集を大事に抱え、呆然と立ち尽くす私はどうしていいか
分からぬまま、ただ立っていたと思う(この時の記憶は曖昧なのだ)
すると、隙間から見えたのだろうか、それとも誰かが見つけてくれたのか、、
私の前に、その俳優は立っていたのだ!
自分から歩んだのか、その俳優が来てくれたのか、、これも記憶がない
とにかく、目の前に居る、、これが信じられない現実だった
私の記憶では、色紙とか、メモ帳とか、ハンカチとか、あるいは
着ているシャツの背中とか、、(多分、背中に書いて!と言った人がいたような)
そういう積極的なファンのテンションに、場慣れしていない学生の私は
何をどうするか、のアクションも分からず、ただ立っていた
しかし、持っていた写真集が目立ったのは確かだ!
その俳優は、誰かのサインペン(油性マーカー中太タイプ)を返さず
そのまま、私が持っていた自らの写真集をパラパラとめくったのだ
そしてここからは、おおよそを記憶している(笑)
・・・これ、買ってくれたんだ
嬉しいなあ、こうやって見ると照れるけどね
それで、どこにサインしようか?
私は、ただポカンとしたままで、何か言ったのか?
きっと「どこでもいいです」みたいなことを言ったのだろう、、
その俳優は、写真集の中ほどにあるお気に入りらしき
フォトのページで止まり、しばし考えつつ
う~ん、やっぱり、ここじゃ閉じてしまうし、見えないから
折角だから、表紙にしよう、ね?
ここから先は、よく覚えていない だが握手はした、、これは確かだ!
見上げた顔、声、物腰もおぼろげ、、
ざわざわと係員が囲み、俳優は私のサインを最後に会場のロビーを去った
シュキュキュ、、と走るペンの音と、油性マジック独特の、ツンとしたにおい
誰かの借り物ペンは、なぜかそのまま私の手に渡されていた
数分が過ぎ、辺りの取り巻きも散り、ポツンと立つ私に
一人の女性ファンが声を掛けた
良かったねえ~、写真集が効果的だったんだよ
みんな色紙とか、ハンカチとかだったから、平凡だもんね
それに、あなただけが学生服だし、目立ったんだね
根津さん、一番長い時間、あなたの目の前に居たよね
学校帰り?今夜は寝れないね、カッコよかったね~
女性の問いかけに、ただ、うんうんと頷き、会話にもならないまま
手の温もりが残る写真集を抱き、、
感動と感激と、ごちゃ混ぜの涙が出てきた
それから、数日後、私は俳優にお礼の手紙を出した
とにかく、嬉しかった思いと、これからの応援の気持ちを書いた
まさか、返事が来るとは思いもせず、それでも差出の住所を礼儀として書いた
真っ白い便箋の縦書きと縦封筒に、きちんと書いた
時が流れた昨夜、日本映画チャンネルで、その俳優の若い作品が放送された
個性派がずらりと並ぶ、まさに競演の顔ぶれは魅力に溢れ
その昔の思い出に、私は一瞬でフラッシュバックしてしまった
そして、11年ぶりにカムバックした作品、、GONINサーガの公開が嬉しい
これで最後、、と発した俳優の思いに、胸が熱くなる・・・
根津さあ~~~ん!!!
あなたは、やっぱり素敵です~~~!!!
私にとって、ファンにとって、最後なんかじゃない、、
いつまでも残る、好きな俳優への思いは永遠なのだ☆
今でも、忘れることのできない宝物
形として残るものだけでなく、心の引き出しにしまった宝
今回書いた、根津さんへの思い・・・
これ、実は2013年・6月に隠れ家的別館で書いたものだった、、
しかし、映画のスイッチが私の記憶と共に、大好きな俳優
素晴しい役者・根津甚八への思いを、大きく揺さぶってしまったのだ
だから、色褪せることのない思い出を
今、ここに書いておこう
現在の、渋谷区神宮前4番地周辺、、
当時、行くことが出来なかった場所だ
それ以来、時代が過ぎてもあの頃の憧れのまま
写真集の温もりと、一枚の便箋の文字に思いを馳せてきた
当然、今も訪れてはいない、、
お返事の住所(事務所)は、ここだった☆
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押し迫った昨年の暮れ、言い様のない感情が襲った
根津さんの訃報は、驚きよりも身体の中に開く大きな穴・・・
それによって力が抜けてゆく、、まさにシューーッとしぼむような感覚で
思わず座り込んだのを覚えている
次第に熱くなる身体
哀しいとか、嫌だとか、そういう咄嗟に起こるものではなく
どんどん沸き起こる胸の痛さ、、涙の出ない苦しさと同時に
一瞬にして戻った、あの頃の鮮明な記憶
何度も読み返しては、また熱くなる根津さんの文字と写真に
この時(2015・9)に書いた記事を振り返り、改めて加筆することにした
12月29日、、月は違っても旅立った愛犬と同じ日(29)
だから忘れない、ワタシにとっても記念の日
根津さん、、あの頃と変わらない思いを遠い空へ向けて贈ります
根津甚八さんが亡くなられたのね、、、
訃報のニュースを目にし、私の頭に浮かんだのは
このreoさまの根津甚八さまへの愛の記事。
頭の片隅には学生服のreoさまも(笑)浮かびました
この記事を拝読した時に
「この素晴らしい記事を私ごときのコメントで
汚しちゃいけない」と思ったんだわ。
それなのに、こんなに早く
根津甚八さんが亡くなられたのね、、、
などとコメントする日が来るとは
何と言えばいいのか
的外れかもしれないけど
それでも
根津さあ~~~ん!!!
あなたは、やっぱり素敵です~~~!!!
そんな思いのままで居て頂きたい